メディア論および演劇社会学の観点から分析すると、黒崎駿一というキャラクターの成功は、日本の大衆演劇における「敵役(かたきやく)」の様式美が、現代のテレビドラマに極めて高度な形で適応した好例と言えます。
心理学における「緊張と緩和(カタルシス)」の構造において、日曜劇場の重苦しい企業犯罪や政治汚職のストーリーは、視聴者に強いストレスを与えます。そこに黒崎という「圧倒的な力を持つ異端のトリックスター」が乱入し、誇張された身体表現と独特の台詞回しで場を支配することで、物語の緊張感は保たれたまま、視聴者の情動が一気に解放されるのです。
片岡愛之助が演じた黒崎は、単に主人公を苦しめるだけの悪役ではありませんでした。「国を愛し、不正を許さず、自らの職務に命を懸ける」という点において、実は半沢直樹と鏡像関係にあるプロフェッショナルでした。だからこそ、シーズン2終盤で見せた二人の共闘と、「忘れないで、あなたのことなんか」と言い残して去っていく引き際の美学は、時代を超えて語り継がれる名シーンとなったのです。