井手上漠を語る上で欠かせないのが、自らの「性別(ジェンダーレス)」に対する向き合い方です。幼少期から人形遊びや可愛い服を好んでいた井手上漠は、成長するにつれて周囲の視線や心ない言葉に深く傷つき、一時は無理に周囲に合わせようと髪を短く切り、苦悩の日々を過ごした過去を持ちます。
その暗闇から救い出したのは、母親の無償の愛と確固たる言葉でした。「漠は漠のままでいいんだよ」という母の肯定を受け入れたことで、他人の物差しではなく、自らの心に正直に生きる覚悟が決まったと語られています。2026年に上梓されたフォトエッセイ『normal』では、世間が押し付ける「普通(ノーマル)」という概念への疑問と、葛藤を乗り越えて自らのアイデンティティを確立するまでの軌跡が克明に綴られています。
心理学者や家族社会学の視点から見ても、井手上漠の自己肯定感の高さは、家庭内における健全な受容関係(無条件のストローク)に基づいていることが分析されています。親が子どもの心理的バウンダリー(境界線)を尊重し、社会通念の押し付けを行わなかったことが、プレッシャーに晒される芸能界においてもブレない精神的支柱を形成したと言えます。