かつて「女だから」という理由で歌舞伎の本舞台に立てなかった寺島しのぶの葛藤は、広く知られている。彼女はその悔しさをエネルギーに変え、映画と現代劇の世界で誰も文句を言えない実績を積み上げた。そして今、息子の真秀を梨園へと送り出し、自らも舞台演出や評論に関わるなど、伝統芸能とジェンダーのあり方に新たな風を吹き込んでいる。
この寺島の戦いと生き様は、染五郎をはじめとする若い世代の意識にも確実な変化をもたらした。歌舞伎役者がアングラ演劇や海外配信作品へ自由に挑戦できる土壌が整った背景には、寺島のような先駆者が「旧態依然とした境界線」を破壊してきたからに他ならない。染五郎が魅せるしなやかで捉えどころのない魅力の背景には、こうした先行世代の改革精神が息づいている。