金沢を訪れる旅行者の多くがまず目指すのは、重要伝統的建造物群保存地区にも指定されている「ひがし茶屋街」です。幅の広い石畳の目抜き通りに格式ある茶屋建築が立ち並び、金箔ソフトクリームや伝統工芸品のショップ、カフェが軒を連ねる様子は、金沢観光の王道と言えます。しかし、浅野川大橋を渡ってすぐ対岸に位置する主計町茶屋街へ足を踏み入れると、街の空気感は劇的な一変を見せます。
主計町茶屋街とひがし茶屋街の最大の違いは、その立地構造と観光客の滞在目的にあります。ひがし茶屋街が広場のような開放感を持ち、昼間のショッピングや散策を主軸としているのに対し、主計町茶屋街は浅野川の護岸沿いと極めて狭小な裏路地のみで構成されています。大型の観光バスが横付けされることもなく、店舗の看板も極限まで控えめです。
現場を歩けばすぐに理解できるように、主計町茶屋街は「観るための街」というよりも「そこに身を浸すための街」です。川のせせらぎ、風に擦れ合う柳の葉音、そして夕暮れ時に格子戸の奥から漏れ聞こえる三味線の稽古の音など、五感で味わう風情の純度が際立っています。商業的な賑やかさから意図的に距離を置き、落ち着いた情緒を求める旅行者が主計町を目的地に選ぶ理由はここにあります。