ダ・ヴィンチの思考の全容を伝える最大の一次資料が、世界各地の美術館や図書館に分散して保管されている約7,200ページにおよぶ手稿(ノート)です。左利きだった彼が右から左へと独特の「鏡文字」で書き綴ったこれらの手稿には、文章と緻密なスケッチが不可分に融合した形で記録されています。
彼の思考法の根幹は、イタリア語で「Saper vedere(サペール・ヴェデーレ=見方を知ること)」という概念に集約されます。先人の書物や教会が説くドグマを盲信せず、自らの目と手で現象を検証する徹底した実証主義でした。
名画『モナ・リザ』や『最後の晩餐』がなぜ人類の至宝と呼ばれるのか。その背景には、何十体もの遺体を解剖して突き止めた筋肉の動き、光と影の物理的拡散を追った光学実験、水流の渦を幾何学的に分析したノートの蓄積があります。絵画は彼にとって単なる装飾品ではなく、世界の成り立ちを解き明かすための「最高の科学探求ツール」でした。専門分野の垣根を取り払い、アートとサイエンス、工学を自由に行き来する横断的知性こそが、私たちが学ぶべき思考法の真髄です。