テレビアニメで毎週流れるのは1番の歌詞のみですが、「アンパンマンのマーチ」が持つ真の文学的価値は、2番および3番を含めた全体構造を俯瞰したときに初めて立ち現れます。以下の表は、各番の歌詞構造とそこに込められた主題を整理したものです。
2番に登場する「胸の傷が痛んでも」というフレーズは、幼児向けアニメの主題歌としては極めて異質です。しかし人生において、傷を一つも負わずに大人になれる人間はいません。失恋、挫折、親しい人との死別。そうした痛みを否定するのではなく、「痛んだままでいい、それでも夢を忘れるな」と語りかけるからこそ、この歌は傷ついた大人の心に深く染み入ります。
さらに3番の「時は早く過ぎる」という警句は、やなせ氏自身の人生の晩期における実感が投影されています。やなせ氏が漫画家・絵本作家として世間的な大ブレイクを果たしたのは、60代後半から70代にかけてでした。遅咲きの苦労人だったからこそ、「迷っている暇はない、人生は短い」という言葉には圧倒的な説得力が宿っています。