SNSや大手質問掲示板を調査すると、「指で毎日前歯を押し続ければ引っ込む」「表情筋マッサージで上唇を伸ばせばガミースマイルは治る」といった投稿が散見される。若年層を中心にこうした書き込みを信じ込み、鏡の前で自力矯正を試みる当事者が後を絶たない。しかし、現役の歯科医師や口腔外科医への取材を通じて浮かび上がるのは、自力で治せるという言説は100%医学的根拠を欠いたデマであるという冷厳な事実だ。
歯は歯槽骨という硬組織の中に、歯根膜という極めて繊細な繊維組織を介して埋まっている。専門の歯科矯正では、数グラム単位の精密にコントロールされた持続的な力を数ヶ月から数年かけて加えることで、骨の吸収と再生(リモデリング)を促す。指や割り箸で無理やり後方や上方へ圧力を加えると、歯根が異常に溶けて短くなる歯根吸収を引き起こし、最悪の場合は歯がグラグラになって脱落の危機に直面する。
また、強引なマッサージによって歯肉を圧迫し続けると、血流障害や物理的摩擦から不可逆的な歯肉退縮(歯茎下がり)を招く恐れもある。一度すり減った歯肉や骨は自然には再生しない。当事者コミュニティに寄せられた「高校時代に自力で押し込み続けた結果、前歯の神経が死んで変色してしまった」という痛烈な告白は、安易な自己流アプローチがもたらす取り返しのつかない代償を雄弁に物語っている。