野口氏の結婚歴の中で、一般に最も驚きをもって受け止められるのが「シェルパ族女性との結婚」です。この事実は決して隠された過去ではなく、彼自身が自著『落ちこぼれてエベレスト』や過去のドキュメンタリー番組の回顧録で率直に語っています。
時を遡ること1995年、弱冠21歳前後の野口氏はエベレスト登頂のベースキャンプ周辺に位置するシェルパの村に滞在していました。そこで出会ったのが、当時まだ十代半ば(現地では婚姻適齢とされる年齢)だったシェルパ族の少女・ラミンさんでした。厳しいヒマラヤの気候と貧富の格差、シェルパの人々が命を削って外国人登山者を支える現実に直面した野口氏は、彼女とその家族を守りたいという強い責任感と情熱から、現地で結婚の儀を交わし、法的な手続きを進めました。
しかし、カトマンズでの生活や日本への招聘を試みる過程で、圧倒的な文化の違いや生活基盤の脆弱さが露呈します。電気や近代インフラもままならない山岳集落で生きてきた彼女にとって、近代都市のシステムや異国での生活は極めて過酷な心理的負荷を伴うものでした。野口氏自身もまた、次なる峰を目指す極限の挑戦者であり、一箇所に定住して家庭を維持できる経済的・精神的成熟には達していませんでした。
結果として、婚姻生活はわずか約2年で破綻。野口氏は現地に一定の支援を残しつつ、正式に離婚届を提出することになりました。若き日の挫折とも言えるこの経験は、後に彼がネパールでシェルパの遺族支援基金を立ち上げたり、学校建設支援などの社会貢献活動に心血を注ぐ原点の一つとなっています。