渡辺美佐子の生涯を語る上で、名誉や興行成績以上に重い意味を持つのが、1985年からスタートした原爆朗読劇への取り組みです。広島・長崎で犠牲となった旧制中学生や女学生、教師たちの遺稿集『夏服の少女たち』などをテキストに、大森暁美や岩本多代ら志を同じくする女優たちと「夏の会」を結成。毎年夏、全国各地で朗読公演を重ねました。
「風化させてはならない記憶がある」という一心で続けられたこの公演は、単なる朗読の枠を超え、聴く者の胸に当時の惨禍と失われた命の尊さを生々しく刻み込みました。33年間の節目を迎えた際にひとつの区切りをつけ、後進の若い世代へとバトンを託した際、会場からは惜しみない拍手と涙が注がれました。演劇関係者の間でも「美佐子さんたちの朗読には、一切の虚飾を排した祈りそのもののような力があった」と今なお語り草となっています。
また、テレビ朝日系のトーク番組『徹子の部屋』には節目ごとに出演。司会の黒柳徹子とはテレビ創成期からの旧知の仲であり、番組内では夫・大山勝美氏との知られざる思い出や、一人暮らしを始めた自宅での日々の過ごし方を飾らない言葉で語り合いました。画面越しに伝わるユーモアと気品に満ちた肉声は、多くの視聴者に「年を重ねることの豊かさ」を強く印象づけました。