あの暗転の日から、彼の生活は激変した。バイク事故による高次脳機能障害と四肢麻痺。一時は自発呼吸すら危ぶまれ、医師から厳しい見通しを告げられたこともあったという。しかし、彼は決して生きることを投げ出さなかった。
転院を重ねながら専門施設で始まったリハビリテーションは、想像を絶する過酷さだった。指先をかすかに動かすこと、呼吸を整えること、車椅子に座る姿勢を保つこと。かつて自在に包丁を操っていた身体にとって、日常の些細な動作一つひとつが気の遠くなるような試練の連続だった。その苦闘を支え続けたのが、献身的に寄り添う妻の存在と、彼自身の内奥に眠る料理人としての強靭な意志だ。寝たきりの状態から車椅子への移乗、そして周囲とのコミュニケーションを取り戻すまで、奇跡とも呼べる前進を彼は一歩ずつ積み重ねてきた。