脳という司令塔が存在しないにもかかわらず、クラゲは規則正しく傘を開閉させて水中を泳ぎ、獲物を察知して触手で捕らえます。この自律的な行動を司っているのが「散在神経系(さんざいしんけいけい)」と呼ばれる神経ネットワークです。
人間をはじめとする脊椎動物は、脳と脊髄からなる「集中神経系」を持ち、すべての感覚情報がいったん中枢(脳)に送られてから行動指令が出されます。一方、クラゲの神経は全身に網目状(神経網)に均一に張り巡らされています。外部から刺激を受けると、その信号が局所の神経細胞を通じて周囲へ波紋のように伝わり、脳を介さずに直接筋肉組織を収縮させます。
特に傘の縁には「感覚器(縁膜や平衡器)」が点在しており、水流の傾きや光の明暗をダイレクトに検知します。例えば水流の傾きを平衡器が感知すると、その部位に隣接する環状神経から筋肉へ即座に伝達が走り、自発的に姿勢を立て直す収縮行動(反射行動)が起こります。
中央のコントロールセンターを持たず、現場の各センサーが自律的に連動して全体を動かす「エッジコンピューティング」のような自律分散型システムが、クラゲの身体には天然のプログラムとして実装されています。