日常の会話において「固定電話」と「IP電話」という言葉は混同されがちですが、通信技術と制度設計の観点から見ると両者の境界線は明確に規定されています。かつて主流だった伝統的な固定電話は、電話線(銅線のメタルケーブル)を通じて電話交換機を経由するアナログ回線(PSTN:公衆交換電話網)を利用していました。これに対し、IP電話は音声をデジタルデータ(パケット)に変換し、インターネットやIPネットワーク上で送受信する通信方式を指します。
ここで多くのユーザーが誤解しやすいのが、NTT東日本・西日本が主導して完了させた固定電話のPSTN移行による影響です。交換機の老朽化に伴い、局内の設備はIP網へと切り替えられました。ただし、これによって一般家庭やオフィスの電話機がいきなり「すべて050のIP電話になった」わけではありません。ユーザー宅内の端末や宅内配線は従来のまま維持され、裏側の基幹ネットワークのみがIP化された形です。
さらに現在流通している電話サービスは、大きく分けて以下の3つの系統に分類されます。
- 従来型アナログ回線:銅線メタルケーブル直結。NTT局舎から給電を受けるため、外部停電時でも電話機単独で通話が可能な高い堅牢性を誇るが、維持費が高い。
- 0ABJ型 IP電話(ひかり電話など):光ファイバー網を利用し、総務省が定める厳しい通信品質基準(固定電話と同等水準)をクリアしたサービス。「03」や「06」といった地域市外局番をそのまま使用できる。
- 050型 IP電話:プロバイダやアプリを通じてインターネット回線(ベストエフォート)上で音声パケットを通す方式。基本料・通話料が極めて安価な反面、回線混雑の影響を直接受ける。
つまり、一口に「固定電話とIP電話の違い」と言っても、光ファイバーを用いた高品質な「ひかり電話」と、安価な「050IP電話」では、その立ち位置やリスクの所在が全く異なります。この前提を理解しないまま「IP電話は安い」という一面的な情報だけで契約を切り替えてしまうことが、後の混乱を招く最大の要因です。