品詞分解で文法構造を捉えたら、次は前後の文脈と現代語訳を照合し、生々しい人間ドラマとして理解を深めましょう。平安時代の貴族社会における婚姻制度「招婿婚(通い婚)」の不安定さが、道綱母の尖鋭な筆致を生み出しています。
【冒頭部の現代語訳】
このように(華やかであった)時期が過ぎ去って、世間の中でひどく頼りなく、どこにも身を落ち着けることもできずに、無為に生涯を過ごす人がいた。(世間の古い物語を見ても嘘ばかりであるため)この人が並々ならぬ身分の方(藤原兼家)と結婚して暮らした日記を書き残したならば、世の一夫多妻のありさまを見せる見本にもなるだろうか、と思って書き始めたのである。
【うつろひたる菊〜和歌の現代語訳】
さて、九月頃になって、(兼家が)出かけて留守にしているときに、文箱があるのを見ると、別の女性(町の小路の女)からの手紙が入っている。……(中略)……二、三日姿を見せない兼家が、夜更けにやって来て門を叩かせたが、私は心の中で憎らしく思い、決して開けさせなかった。翌朝になって、色あせた菊の花に書き添えて差し出した歌が、この一首である。
「あなたを待ち侘びて嘆きながら、ただ一人で寂しく眠る夜が明けるまでの時間が、どれほど長いものか、あなたはお分かりでしょうか。(夜歩きに浮かれるあなたには決して分からないでしょう)」
この場面のクライマックスは、兼家が他の女の元へ通っている証拠を掴んだ道綱母が、深夜の来訪に対して門扉を固く閉ざして拒絶する点にあります。兼家が飄々と「夜を明かしてしまったよ」と言い訳の手紙を寄越したのに対し、道綱母は盛りを過ぎて色あせた「うつろひたる菊」を突きつけ、自分の冷え切った心と女盛りの儚さを痛烈に皮肉ったのです。