イカの全体像を生物学的な視点から見直すと、私たちが普段思い描いている「頭・体・足」の認識とは大きなズレがあります。
イカの構造(解剖図)を上から順に整理すると、以下のような配置になっています。
- 鰭(ひれ/エンペラ):最上部に位置する三角形のヒレ。遊泳の方向を決める舵。
- 外套膜(がいとうまく/胴):一般的に「イカの体」と呼ばれる筒状の部分。内臓を包む筋肉の袋。
- 頭部(眼・脳・口):胴体のすぐ下、目の付いているくびれ部分。中心に「カラスビトンビ」と呼ばれる嘴(くちばし)がある。
- 腕・触腕(足・ゲソ):頭部から伸びる10本の腕。獲物を捕らえる2本の長い触腕を含む。
頭から直接足が生えているように見えることから、タコやイカは「頭足類(とうそくるい)」と呼ばれます。つまり、イカの耳(ヒレ)は頭にあるのではなく、胴体の最も後ろに位置しているのです。
このヒレ部位が果たす生態学的な役割は、極めて高度な「遊泳制御」にあります。イカは外套膜の中に海水を取り込み、漏斗(ろうと)と呼ばれる噴射口から勢いよく水を吹き出すジェット推進によって高速で移動します。しかし、ジェット推進だけでは直進しかできません。
そこでエンペラを細かく波打たせたり、角度を変えたりすることで、海中でのホバリング(静止)、急旋回、上下の浮力調整、微細な方向転換といった「船の舵(ラダー)」の役割を完璧にこなしています。アオリイカのように胴体の縁全体に丸いヒレを持つ種は優雅に泳ぎ、スルメイカのように鋭利な三角形のヒレを持つ種は外洋を高速で回遊するなど、ヒレの形状はそのイカの生活様式と直結しています。