境内に足を踏み入れた者が例外なく息を呑むのが、境内西側に鎮座する「獅子殿(ししでん)」の異相です。昭和49年(1974年)5月、本殿の建て替えに伴って完成したこの建造物は、鉄骨鉄筋コンクリート造、高さ12メートル、幅11メートル、奥行き10メートルという威容を誇ります。獅子の目は照明、鼻の穴はスピーカーの役割を果たす構造となっており、神楽や伝統芸能を奉納する本格的な舞台として設計されました。
なぜこれほどまでに巨大な獅子頭が建造されたのか。神社側の由緒書および関係者の記録によると、「大阪の街を襲う悪疫や不況の邪気をその巨大な口で一気に呑み込み、人々に勝利と幸運をもたらす象徴」として構想された経緯があります。獅子の眼光は邪霊を睨みつけ、大きく開いた口は勝利の栄冠を逃さず掴み取る構図を具現化したものです。
この造形の根底には、難波八坂神社の御祭神である素戔嗚尊(スサノオノミコト)の神威が深く関わっています。日本神話において、出雲の地で暴れ狂う怪物ヤマタノオロチを退治し、人々に平和を取り戻したスサノオは、古くから疫病退散・厄災消除の最高神として崇拝されてきました。巨大な獅子殿は、現代において猛威を振るう経済的な不安や災厄を打ち破る「スサノオの力強さの視覚的再解釈」として、人々の集合無意識に強烈な安心感を与え続けています。