胃薬が奏効しない代表格として、消化管の組織に物理的な損傷が生じている器質的疾患が挙げられます。なかでも頻度が高く警戒すべき病態が、胃粘膜が自身の胃酸やペプシンによって自己消化され、深く傷つく消化性潰瘍です。
臨床現場において、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の症状には顕著な痛みのタイミングの違いが確認されています。胃潰瘍は食後に食べ物が胃に入り胃酸が激しく分泌されるタイミングでみぞおちが重苦しく痛み、十二指腸潰瘍は空腹時や深夜、胃の中が空になったタイミングで激しい差し込み痛が生じる傾向にあります。これらは粘膜の深層にある筋肉層にまで欠損が及んでいるため、数回市販薬を飲んだ程度で組織が再生することはあり得ません。
潰瘍の発生と再発において極めて重要な鍵を握るのが、ピロリ菌感染の有無と胃痛の検査です。日本ヘリコバクター学会の診療知見でも示されている通り、消化性潰瘍患者におけるヘリコバクター・ピロリの陽性率は依然として高く、除菌治療を行わない限り約50〜70%の高確率で再発を繰り返します。ピロリ菌が持続感染すると胃粘膜に慢性的な萎縮性胃炎を引き起こし、将来的な胃がん罹患リスクを跳ね上げるため、慢性的な痛みがある場合は尿素呼気試験や便中抗原測定による確定診断が欠かせません。
また近年、デスクワークの増加や食生活の欧米化に伴い患者数が急増しているのが、逆流性食道炎で薬が効かないという訴えです。市販の胃酸抑制薬を飲んでも胸焼けやみぞおちの痛みが改善しない場合、胃酸を抑えきれていない「酸分泌過多」の重症例だけでなく、胆汁などの非酸性消化液が逆流しているケースや、食道粘膜が知覚過敏状態に陥る「機能性胸やけ」を併発しているケースが存在します。放置すると食道粘膜が円柱上皮化するバレット食道へと進展し、食道腺がんのリスクを内包することになるため、確実な鑑別が必要です。