筋出力向上以上に、スポーツ歯科医がマウスピース着用を強く推奨する決定的な理由が「歯と顎関節の物理的保護」です。特にパワーリフティングや高強度のベンチプレス、スクワットにおいて、歯にかかる負荷は想像を絶するレベルに達しています。
日本国内の歯科臨床データやリフターへの聞き取り調査によると、日常的に高重量を扱うトレーニーには以下のような深刻な口腔トラブルが多発しています。
- ベンチプレス時の歯の痛みと破折:バーベルをラックアウトしてボトムから押し戻す際、無意識に一転集中で噛み締めが生じ、エナメル質に微細なヒビ(マイクロクラック)が入る。最悪の場合、神経に達する歯冠破折や歯根破折に至り、抜歯を余儀なくされるケースもある。
- 知覚過敏と咬耗(こうもう):長年のウェイトトレーニングにより、奥歯の噛み合わせ面が著しくすり減り、象牙質が露出して冷たいものが激痛に変わる。
- 顎関節症の悪化:偏った噛み合わせのまま食いしばりを繰り返すことで、顎関節円板が摩耗・変位し、口の開閉時にクリック音や激しい関節痛が生じる。
一度失われた天然歯の構造や摩耗したエナメル質は、現代医療でも再生しません。1回数十万円に及ぶセラミック治療やインプラント手術のリスクを考慮すれば、マウスピースによる事前防御は極めて費用対効果の高い「保険」と言えます。