若くしてスクリーンデビューを果たし、緻密な心理描写と繊細な視線表現で映画界の寵児となった橋本愛。しかし、彼女が本格的な演劇の世界へと足を踏み入れた際、映像と舞台の構造的なギャップが巨大なプレッシャーとなってのしかかりました。
彼女が決定的な苦手意識を持つきっかけとなったのが、2016年に挑戦したチェーホフの古典劇『かもめ』でのニーナ役です。演出家の徹底的な指導と共演者たちの卓越した発声・身体性に囲まれる中、「自分の声が劇場の奥まで届かない」「全身を使った空間表現ができていない」という強い無力感に襲われました。カメラのフレーム内で完結する引き算の演技を得意としていた彼女にとって、空間全体を掌握しなければならない足し算の舞台表現は、自己否定感を急激に加速させる要因となったと語られています。
当時の報道各社による特集インタビューや本人の手記において、「舞台上に立つこと自体に足がすくむような感覚があった」「自分の存在が観客に否定されているのではないかという恐怖に襲われた」という趣旨の生々しい実情が吐露されています。この体験が、後に本人が語る「演劇に対する一種のトラウマ」の根源となりました。