鑑賞者を長年悩ませてきたもう一つの大きな謎が、ユダの背後からのびる「ナイフを握った右手」だ。一時期は「誰も所属していない第13の手ではないか」という都市伝説まで囁かれたが、修復作業と研究が進んだ現在ではその持ち主が解明されている。
このナイフを握っているのは、ユダの隣に立つ熱血漢ペテロだ。イエスが「あなた方のうちの一人が私を売る」と予言した瞬間、激昂したペテロは手にしたナイフを逆手に握り直し、犯人を突き止めようと身を乗り出している。この手首のひねりが複雑だったため、まるでユダの影から不気味な刃が突き出しているかのような視覚的効果を生み出した。後のオリーブ山の場面でペテロが兵士の耳を削ぎ落とす行動への伏線としても機能しており、ダ・ヴィンチの緻密な計算が光る場面だ。