超音波スクリーニングで特に注目を集め、妊婦を不安のどん底に突き落としやすい指標が「NT(頸部後頭側透過像)」と「鼻骨の未確認」です。この2つの所見が持つ医学的な意味を正確に理解する必要があります。
まず、首の後ろの厚みNT基準値は、国際的な基準(英国FMF: Fetal Medicine Foundationなど)において3.0mm以上、または3.5mm以上を一過性の肥厚所見として精査の対象とすることが一般的です。胎児の後頭部には、健常な赤ちゃんでも生理的に少量の皮下リンパ液が溜まります。しかし、心臓の循環機能が未熟であったり、リンパ系の発達に遅れがあったりすると、この液体貯留が厚みを増します。
重要な統計的事実として、NTが3.0mm〜3.4mmと判定された場合でも、約70〜80%の胎児は何の染色体異常も先天性疾患もなく元気に生まれてきます。NT肥厚はダウン症特有の現象ではなく、他の染色体変化や先天性心疾患、あるいは単なる一時的な生理現象でも起こるため、「NTが厚い=障害がある」という等式は成り立ちません。
次に、鼻骨が見えないエコー理由です。ダウン症の胎児は骨の形成がゆっくり進む傾向があり、妊娠11〜13週の断面で鼻骨が骨化していない、あるいは極めて低形成である頻度が健常児より高い(ダウン症児の約50〜60%に見られる)と報告されています。
しかし、健常な日本人胎児であっても、およそ1〜3%は妊娠初期に鼻骨が明瞭に描出されません。アジア人は欧米人に比べて骨格的に鼻根部が平坦であることや、胎児の顔の向きが子宮壁側を向いている、羊水量が少なくて音波が減衰する、母体の皮下脂肪の厚みによって画像がぼやけるなど、物理的な要因で見えないケースが多々あります。「見えない」ことと「存在しない」ことは、画像診断において全く同義ではないのです。
また、妊娠中期以降に不安視される大腿骨短い胎児理由についても同様です。大腿骨長(FL)が標準値(-1.5SD〜-2.0SD以下)より短い場合、ダウン症や骨系統疾患の可能性が議論されますが、実際には両親の小柄な体質遺伝や、計測時にエコーのプローブ(端子)をあてる角度による数ミリのズレ(計測誤差)が原因である事例が日常茶飯事です。