広大な遺跡を無駄なく堪能するには、ペトラ遺跡のシークの回り方と地形の把握が欠かせません。ビジターセンターから約1km緩やかな砂利道を歩くと、突如として両側に高さ数十メートルもの巨岩がそびえる峡谷「シーク(Bab As-Siq)」の入り口に達します。曲がりくねった約1.2kmの天然の岩の裂け目を進む時間は、外界から異次元へと誘われるかのような静寂と緊張感に満ちています。
シークの狭い岩壁の隙間からドラマチックに視界へ飛び込んでくるのが、かの有名なエル・カズネ(宝物殿)です。幅約25m、高さ約40mに及ぶ巨大な岩壁を直接彫り込んで造られたヘレニズム様式のファサードは、息をのむ美しさを誇ります。映画ファンにはたまらない『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』のロケ地であり、聖杯が隠された神殿としてスクリーンを飾った伝説の場所そのものです。彫像の細部や太陽光が岩肌を染めるグラデーションを観賞するなら、光が正面から差し込む午前9時から11時前後の時間帯を狙うのがベストです。
多くのツアー客はエル・カズネで満足して引き返してしまいますが、真の絶景はその最奥にあります。古代都市の中心部を抜け、岩山に刻まれた800段以上の石段を踏破した先にあるのがエド・ディル(修道院)です。エル・カズネを上回る幅約50m、高さ約45mの圧倒的なスケールを持ち、周辺の切り立った断崖から見下ろすワディ・アラバの荒涼としたパノラマは、過酷な階段を登りきった者だけが得られる至高の報酬と言えます。
一方、週に3夜(月・水・木)だけ開催されるペトラ・バイ・ナイトの評判については、旅行者の間で意見が二分されています。シークからエル・カズネまでの参道に1,500本以上のキャンドルが並ぶ光景は圧巻の一言ですが、「観光客が密集しすぎて静けさがない」「スマートフォン撮影の画面光で雰囲気が損なわれる」という声も少なくありません。過度な幻想を抱かず、「夜の遺跡を歩く散策体験」と割り切って参加するのが満足度を高める秘訣です。