2019年8月に放映された『鬼滅の刃』第19話「ヒノカミ」は、国内外のアニメファンや批評家から「テレビアニメ史を塗り替えた神回」と絶賛されました。その最大の立役者となったのが、戦闘シーンのピークから特殊エンディングにかけてシームレスに挿入された「竈門炭治郎のうた」です。
視聴者が思わず涙を流してしまう最大の理由は、アニメーションの作画テンポと楽曲の感情曲線が完全に一致している点にあります。一般的なアニメ音楽のようにあらかじめ完成した曲に映像を合わせるのではなく、制作スタジオufotableの緻密な絵コンテと映像に合わせ、1コマ単位で音楽を構築する「フィルムスコアリング」の手法が採用されました。
累の強固な糸を斬れず、日輪刀を折られて絶体絶命に陥る炭治郎。走馬灯の中で亡き父・炭十郎が舞う「ヒノカミ神楽」の記憶が蘇り、母・葵枝の声によって覚醒する禰豆子――。絶望から希望への感情転換が起こる瞬間、静謐なピアノとストリングスのイントロから中川奈美氏の清澄な歌声が滑り込み、観る者の感情を極限まで増幅させます。
音楽心理学の観点からも、この楽曲には人間が「悲哀を美しく昇華する」際に生じるカタルシス反応が緻密に組み込まれています。短調を基調としながらも、サビに向けて光が差し込むようなメジャーコードへの展開と、民族音楽的な旋律が組み合わさることで、聴き手の無意識の共感を呼び起こす構造になっているのです。