湯婆婆というキャラクターが世界中の人々の記憶に焼き付いている背景には、湯婆婆の声優を務めた夏木マリ氏の圧巻の演技があります。
宮崎駿監督が夏木氏に求めた演出プランは、「ただのヒステリックな悪者にはしないでほしい」「一人の女性としての厚みや生活感を込めてほしい」というものでした。夏木氏は、凄まじい迫力で千尋を怒鳴り散らす威圧感と、坊の前で急変する蕩けるような甘い声色を、声優初挑戦とは思えない絶妙なバランスで演じ分けました。さらに姉・銭婆の声も兼任し、同一の声質でありながら銭婆の穏やかで知性あるトーンを見事に具現化しました。
この魂の系譜は、2022年の初演から現在に至るまで国内外で絶賛を浴びる『舞台 千と千尋の神隠し』の湯婆婆役へと受け継がれています。初演からキャスティングされた夏木マリ氏自身に加え、朴璐美氏、春風ひとみ氏、羽野晶紀氏といった名だたる実力派俳優たちがダブル・トリプルキャストとして湯婆婆・銭婆役を演じてきました。
特に2024年の英国ロンドン・ウェストエンド公演(ロンドン・コロシアム劇場)において、現地の演劇批評家たちは「舞台上に顕現した巨大な魔女のパペットと俳優の身体表現の融合」を絶賛。言葉の壁を越え、過剰なエゴと母性を併せ持つ湯婆婆の造形は、シェイクスピア劇の登場人物にも匹敵する普遍的な人間ドラマの体現者として、世界的評価を確立しています。