「生」という文字が歴史的事件の象徴となった代表例が、江戸時代初期に徳川綱吉によって発令された「生類憐みの令」だ。教科書でおなじみのこの法令だが、ここで使われている「生類(しょうるい)」という熟語は、単に「生き物」を意味するにとどまらず、人間を含むあらゆる生命への慈悲を問う仏教的語彙に由来している。
極端な犬の愛護政策として語られがちだが、言葉の歴史として見ると「生」という漢字が持つ倫理観や命に対する価値観が強く反映された時代だったといえる。歴史の転換点に必ず「生」を冠する表現が登場するのは、日本人にとってこの文字が単なる記号ではなく、精神性の根底を支える存在だったからにほかならない。