名古屋駅周辺は、日本屈指の「味噌カツ高密度エリア」です。新幹線改札に直結する地下街「エスカ(ESCA)」、JR構内の「名古屋うまいもん通り」、名鉄百貨店本館レストラン街、さらにはJRゲートタワーやタワーズプラザのレストランフロアまで、徒歩5分圏内に20店舗以上の味噌カツ提供店がひしめき合っています。
旅行者やビジネス客を虜にするあの独特の「中毒性」は、どこから生まれるのでしょうか。食文化の研究者や料理人が証言するように、最大の要因は豆味噌(八丁味噌)特有のグルタミン酸と、豚肉に含まれるイノシン酸による強烈なうま味の相乗効果にあります。数年間じっくり熟成させた赤味噌は加熱することで香ばしさを増し、豚肉の動物性脂肪のくどさをマスキングして旨味だけを前面に引き出します。
さらに、名店と呼ばれる厨房では、味噌を単に水で溶かすのではなく、上質な鰹節や昆布の出汁、みりん、豚骨スープなどを門外不出の比率でブレンドし、サラリとした口当たりに仕上げています。「見た目は真っ黒で重そうに見えるが、口に運ぶと驚くほど軽快で白米が止まらなくなる」という現象は、この計算し尽くされた出汁の設計によって生み出されているのです。