ペットと暮らす人の間で今なお根強く残る誤解が、「しっぽを振る動作=友好的な歓迎」という図式です。これはイヌ科動物のコミュニケーション様式を無意識にネコ科動物へ当てはめてしまう認知のズレに起因します。犬において左右へのリズミカルなしっぽ振りは親愛や興奮を表すケースが大半ですが、単独狩猟動物として進化してきた猫にとって、しっぽの大きな揺れは交感神経の緊張や心理的な葛藤を意味します。
猫のしっぽには尾椎と呼ばれる20個前後の骨と、それを制御する複雑な筋肉群・神経系が走っています。臨床獣医師の報告によると、猫は感情の変化を声に出すよりも先に、耳、ヒゲ、そしてしっぽの微細な筋肉運動として表出させます。つまり、猫がしっぽを振る心理の基本構造は、「内に秘めた興奮や緊張のエネルギーを物理的な振動として逃がしている状態」と解釈するのが学術的に正確です。
もちろん、猫もしっぽを使って親愛の情を示します。しかしその表現方法は、犬のように「左右に激しく振る」のではなく、「高くピンと掲げる」「先端を緩やかにカーブさせる」「小刻みに震わせる」といった全く異なる動作形態をとります。この違いを混同することが、飼い主と愛猫の間に生じるすれ違いの最大の要因となっています。