『ファンタスティック・ビースト』シリーズにおける最大の転換点といえば、シリーズ第3作『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』を前に起きたゲラート・グリンデルバルド役の俳優交代劇です。第1作『魔法使いの旅』のラストで鮮烈なサプライズ登場を果たし、第2作『黒い魔法使いの誕生』で強烈な怪演を見せたジョニー・デップの降板は、世界中のファンに計り知れない衝撃を与えました。
交代の直接的な契機となったのは、2026年11月に下された英高等法院の判決です。当時、デップは元妻アンバー・ハードに対する家庭内暴力疑惑を巡り、自身を「妻を殴る者(Wife Beater)」と報じた英大衆紙『ザ・サン』の出版社を相手取って名誉毀損訴訟を起こしていました。しかし、裁判長は報道内容が「実質的に真実である」としてデップ側の訴えを全面的に棄却。この敗訴確定からわずか数日後、製作元のワーナー・ブラザースはコンプライアンスおよびグローバル興行への影響を重く見て、デップに対して自発的な降板を要請しました。
デップ本人は自身の公式SNSを通じて「ワーナー・ブラザースからグリンデルバルド役を辞任するよう求められ、私はそれを受け入れました」と紳士的な声明を発表。しかし米ハリウッド・レポーターなどの業界有力紙が報じたところによると、デップの契約は出演の有無にかかわらず全額が支払われる「ペイ・オア・プレイ契約」であったため、わずか1シーンの撮影のみで約1,000万ドル(当時のレートで約10億円以上)の出演料が満額支払われたという生々しいスタジオ裏事情も明るみに出ています。
急転直下の事態を受けて白羽の矢が立ったのが、デンマークの名優マッツ・ミケルセンでした。ミケルセンは就任決定当時のインタビューで「ジョニーが築き上げたものを完全にコピーするのは創造的な自殺行為だ。私たちは彼と私の演技の間にある架け橋を見つけなければならなかった」と語り、敬意を払いつつも独自の役作りへ挑む覚悟を吐露。結果として、デップ版のエキセントリックなロックスター的狂気とは一線を画す、冷酷な政治的扇動者としてのグリンデルバルドを完璧に提示してみせました。