SNSの相談コミュニティや医療機関の問診票において、「数週間前に手のひらに変なブツブツが出たが、市販薬を塗っていたらきれいに消えたので治ったと思っていた」という告白が後を絶ちません。取材に応じた性感染症専門医は、「皮疹が消えた段階こそが、体内深部へ病原体が侵襲していく潜伏梅毒の始まりである」と警鐘を鳴らします。
梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)は、皮膚や粘膜の微細な傷から侵入後、局所で増殖したのちに血管やリンパ管を通って全身の組織に定着します。第1期や第2期の皮膚病変が自然に引くのは、自己免疫によって菌が一時的に抑え込まれたように見えるだけであり、体内から菌が排除されたわけではありません。
皮疹が消退した後の「潜伏梅毒」を数年から数十年にわたって放置すると、以下のような深刻な不可逆的ダメージ(晩期梅毒)を引き起こします。
- 心血管梅毒:大動脈瘤や大動脈弁閉鎖不全症などを発症し、血管破裂などの致死的な心血管イベントを招く。
- 神経梅毒:中枢神経系が侵され、髄膜炎、進行麻痺、認知機能低下、歩行障害、感覚鈍麻などを引き起こす。
- ゴム腫:皮膚、筋肉、骨、内臓にゴムのような弾力性のある肉芽腫が形成され、周囲の組織を破壊する。
さらに妊娠中の女性が感染している場合、胎盤を通じて胎児に感染し、死産や早産、あるいは新生児に深刻な障害を残す「先天梅毒」のリスクが跳ね上がります。