これまで家族の絆や社会の隙間を繊細なタッチで描き続けてきた是枝裕和監督。本作において監督が追求したのは、嘘のない「生の人間性」だ。インタビューに応じた撮影スタッフは、「監督はセットではなく、実際の街が持つ空気感そのものをフィルムに焼き付けることに執着していた」と語る。
あらかじめ用意されたセリフをなぞるのではなく、その場に立つ役者の呼吸や表情の揺らぎを逃さず捉える手法は健在だ。サスペンスという緊張感溢れるジャンルにおいても、登場人物たちの細やかな心理描写を妥協なく積み重ねることで、他に類を見ない重厚な人間ドラマへと昇華させている。