上久保周哉の強さの理由を解き明かす鍵は、単なるフィジカルの強さではなく、「ケージレスリングの幾何学」とも呼ぶべき緻密な戦術構造にあります。
第一の要素は、日体大柔道部仕込みの「重心破壊」です。オープンフィンガーグローブを着用するMMAでは道着を掴めないため、多くの選手はレスリングのタックルを用います。しかし上久保は、ケージ際での四つ組み、脇の差し合い、頭の位置(ヘッドポジション)の奪い合いにおいて驚異的な嗅覚を誇ります。相手がパンチを打とうと踏み込んだ瞬間に間合いをゼロにし、自分の額を相手の顎下にねじ込んで体勢を崩し、最小の力でテイクダウンを奪います。
第二の要素は、グラウンドにおける「四肢の拘束技術」です。テイクダウンを奪った後、上久保はすぐにパウンドを乱発しません。不用意に腕を振り上げれば相手に隙を与えて立たれてしまうからです。まず相手の片脚を自分の両脚で挟んで固定し、片腕をマットに縫い止め、相手が防御のために使いたい手足を物理的に奪い取ってから、空いた手でコツコツと有効打(ダメージを与えるショート打撃)を打ち込みます。
第三の要素は、呼吸とスタミナの非対称性です。上久保自身はリラックスした状態で胸を密着させているのに対し、下にされた相手は常に60kg以上の圧力を胸腔に受け続け、パニックに陥って無酸素運動を強いられます。第1ラウンドが終わる頃には、打撃力のあるストライカーであっても腕が鉛のように重くなり、パンチの威力が半減してしまうのです。この巧妙な消耗戦の設計こそが、上久保を無敗たらしめた真髄です。