事件当日の朝、雨が降りしきる東京都府中市で起きた強奪劇。日本信託銀行府中支店から東芝府中工場へと向かっていた現金輸送車は、偽の白バイに乗った男に制止された。「支店長の家に爆破予告があった。この車にも爆弾が仕掛けられているかもしれない」。偽警察官の言葉に疑いを持たなかった行員たちは車外へ退避し、男が車底に潜り込んだ直後、煙幕が上がった。「爆発するぞ、逃げろ!」。パニックに陥る行員たちを余所に、男は輸送車ごとそのまま走り去った。
連絡を受けた警視庁は即座に緊急配備を敷いたが、初動捜査の混乱が響いた。犯人が用意したトランクやヘルメットなど、現場には120点以上もの遺留品が残されていたにもかかわらず、その多くが大量生産品であり、犯人の特定には至らなかった。警視庁が威信をかけて投入した特別捜査本部は、膨大な聞き込みと目撃証言の分析を進めたが、犯行の精密さと大胆さの前に捜査網は空回りし続けたのである。