芦ノ湖の青い水面に佇む箱根神社の平和の鳥居は、かつての水上交通や神聖な儀礼の場としての役割と、戦後復興の祈念という2つの大きな意味を担っています。古来、箱根神社(旧称・箱根権現)への参拝において芦ノ湖は神聖な禊(みそぎ)の場であり、船で訪れる参拝者を迎える正門として水上に鳥居が構えられていました。
現在の鳥居が「平和の鳥居」と命名された契機は、1952年(昭和27年)のサンフランシスコ平和条約締結です。第二次世界大戦後の占領期を経て日本が主権を回復し、国際社会へ復帰したことを記念して建立されました。
その後、1964年(昭和39年)の箱根神社御鎮座1200年祭にあたり、講和条約の全権大使を務めた元内閣総理大臣・吉田茂が「平和」の二文字を揮毫。その筆跡を刻んだ額字が鳥居の湖面側(外側)へ掲げられました。神社の社記や当時の記録文書によれば、国家の安寧と世界恒久平和への祈りを込めてこの名称が定着した経緯が明記されています。
陸側から鳥居を見上げても額字は見えません。芦ノ湖を航行する船や対岸から眺めたときにのみ「平和」の文字が正対する設計となっており、湖上から訪れる神仏や旅人を迎え入れる結界としての象徴性を今に伝えています。