本作の深みは、主役の二人を取り巻く周囲の人間味あふれる描写によって支えられていました。そのなかには、惜しまれつつこの世を去った名優たちや、印象的な演技を残して画面を去ったキャストの姿があります。
物語に品格とぬくもりを与えた故人キャスト
欧介の数学者としての才能を誰よりも信じ、挫折した彼を温かく見守り続けた黒滝翡翠教授を演じたのは、名司会者・名優として親しまれた児玉清さん(2011年没、享年77)。知性と慈愛に満ちた佇まいは、欧介の心の拠り所としての説得力を放っていました。また、下町の魚屋を一人で切り盛りし、息子の不器用な生き方を温かく包み込んだ欧介の母・中原富士子役の市原悦子さん(2019年没、享年82)の素朴で深みのある台詞回しは、拝金主義に走る桜子の頑なな心を溶かす重要な伏線となっていました。昭和・平成を代表する名優二人の熱演は、今なお視聴者の涙を誘います。
心臓の手術を控えた少年・武藤涼介役の子役の現在
第5話などで欧介と心を通わせ、物語の重要な架け橋となった入院中の少年・武藤涼介役を演じたのは、当時子役として活動していた矢部健太さんです。欧介から教わった数学の美しさに目を輝かせ、桜子の本音を引き出す契機を作った名演は視聴者の胸を打ちました。矢部さんはその後、学業への専念などを経て芸能界を表舞台から退き、一般社会で自立した道を歩んでいることが伝えられています。