日本のモビリティを劇的に変えた高速道路ETC仕組みは、料金所に設置されたアンテナ(路側無線装置)と車両に取り付けられたETC車載器との間で瞬時にデータをやり取りする無線通信技術に基づいています。周波数5.8GHz帯のDSRC(Dedicated Short Range Communications:専用狭域通信)を使用し、車両が料金所レーンに進入してからわずか数ミリ秒から数百ミリ秒の間に以下の処理を完了させます。
- アンテナが車載器の接近を検知し、暗号化通信を開始。
- 車載器に挿入されたETCカード固有の識別番号、車両情報(車載器セットアップデータ)、入口料金所情報を読み取り。
- 出口料金所で走行区間の利用データを照合し、適用される割引条件をリアルタイムで演算。
- 課金処理の合否判定を下し、ゲートの開閉バーを開放。
安全な通信処理と衝突事故防止の観点から、国土交通省および高速道路各社はETCゲート通過速度を「時速20km以下」と厳格に定めています。仮に過度な速度で進入した場合、通信エラーや開閉バーの衝突事故を招くリスクがあり、進入前の一時減速はシステム設計上の絶対条件です。
今日でこそ全国約1,700カ所の料金所で当たり前に利用されていますが、その普及過程には制度設計上の大きな摩擦も存在しました。公式記録や道路関係団体の記録によると、かつてETCの利用促進を目的とした料金優遇が「ETC車載器による無線通信通行のみ」に限定され、ETCカードを手渡しして精算した場合は割引対象外とされた時期がありました。
その結果、車載器の小型化・防水化が遅れていたオートバイ(二輪車)において、深夜割引などが適用された大型トラックよりも二輪車の通行料金の方が高額になるという逆転現象が発生したのです。利用者からの猛反発を受け、2007年11月30日までの特例措置として手渡し精算でも二輪車に割引を適用する救済策が講じられるなど、試行錯誤の歴史を経て現在の安定した無線運用体制が確立されました。