戦国大名・井伊家の危機を救うため、出家して「次郎法師」と名乗り、やがて男名である「直虎」を背負って領地を治めた実在の女性領主。記録が極めて少ない歴史上の人物を1年にわたり演じ抜くことは、並大抵のプレッシャーではありませんでした。
柴咲コウはオファーを受けた当初、大河ドラマ初出演にして初主演という重責に直面しました。制作関係者の証言によると、現場入りの数カ月前から滝行や乗馬、弓術、さらには読経の特訓に身を投じ、所作指導のスタッフが舌を巻くほどの没入ぶりを見せていたといいます。特に印象的なのは、少女期のおとわから、尼僧・次郎法師、領主・直虎、そして後見人として万千代(後の井伊直政)を育てる晩年期に至るまでの「声のトーンと眼差しの変化」です。
仏門に身を置きながらも俗世の泥にまみれ、民を守るために冷徹な判断を下さねばならない苦悩。柴咲コウの持ち味である凛とした目力は、単なる強さだけでなく、弱者の痛みに寄り添う慈悲の深さを湛えていました。当時、一部のネット上で「型破りすぎる女性城主」と賛否両論が巻き起こったものの、放送が進むにつれて視聴者をねじ伏せたのは、まさに彼女の圧倒的な演技力と魂の咆哮でした。