物語開始当初、「夏油傑」として行動していた羂索ですが、なぜ特級呪詛師・夏油傑の遺体を器として選んだのでしょうか。そこには極めて合理的かつ冷徹な3つの計算が存在していました。
第1の理由は、夏油が保持していた生得術式「呪霊操術(じゅれいそうじゅつ)」の獲得です。羂索の最終計画には、日本全土の結界を司る不死の術師「天元」の掌握が不可欠でした。天元は進化によって人間よりも呪霊に近い高次の存在へと変異しており、呪霊操術の完全な支配下(降伏・取り込み)に置くことが可能だったためです。
第2の理由は、現代最強の呪術師・五条悟を特級呪物「獄門疆(ごくもんきょう)」に封印するためのトリガーとすることでした。獄門疆の発動には「対象を半径約4メートル以内に1分間留める」という厳しい縛りがありましたが、かつて自らの手で殺めた無二の親友・夏油傑が目の前に現れることで、五条の脳内に「3年間の青い春」が一瞬でフラッシュバックし、脳内時間での1分間をクリアさせることに成功しました。
そして第3の理由は、呪術界上層部や呪詛師たちへの心理的・政治的影響力です。かつて百鬼夜行を引き起こしたカリスマ的指導者の姿を利用することで、自らの息がかかった呪詛師や呪霊たちを効率よく統率しました。
これら綿密な下準備の先にある羂索の「真の目的」とは、世界征服でも全人類の抹殺でもなく、「人類と天元の同化による、呪力の可能性の追求」でした。彼自身が語った「自分自身の手で作れるものには限界がある。見てみたいんだ、自分の手から離れた混沌の先にあるものを」という言葉通り、自らの知的好奇心と探求心を満たすためだけに、全人類を巻き込んだ未曾有の進化実験を企てていたのです。