「キャッシュレス化が進みすぎると、停電やサイバー攻撃が起きた瞬間に社会が機能不全に陥る。それに、誰がどこで何を買ったかすべて監視されるリスクもある」
バーゼルの市街地でビラを配っていた市民団体のメンバーは、興奮冷めやらぬ様子でそう語った。今回特に注目を集めているのが、物理的な現金の維持を憲法条文に明記させようとするイニシアチブ(国民発案)だ。
スイスでも電子決済の利用率は年々上昇しており、若年層を中心に現金を持ち歩かない生活が定着しつつある。しかし、国民の多くには「現金=国家の主権と個人のプライバシーを守る砦」という根強い信念が存在する。スイス国立銀行(中央銀行)や連邦政府は「現時点でも現金の供給は十分に保証されている」と反対の立場をとるが、世論調査では賛否が激しく拮抗。デジタル利便性とアナログな安全保障のバランスをどう取るか、世界中の金融当局がこの投票結果を息をのんで見守っている。