コンテストに応募される作文の約7割が、「挨拶をしたら地域が明るくなりました」「みんなが思いやりを持てば犯罪はなくなります」という、いわゆる“道徳のお手本”のような内容で占められています。しかし、こうした文章が全国選考に残ることはまずありません。
社会学には、過ちを犯した個人に対して周囲が否定的な烙印を押すことで、かえって反社会的行動へ追い込んでしまう現象を説明する「ラベリング理論」が存在します。犯罪や非行の本質は、個人の道徳心の欠如だけではなく、失敗を許容しない社会の不寛容さや孤立にあるというのが、現代の更生保護政策における共通認識です。
審査員が辟易としているのは、安全地帯から悪を一方的に批判し、抽象的な正しさを説く作品です。求められているのは、「自分も加害者側・排除する側に回っていたかもしれない」という当事者意識です。社会の矛盾や人間の弱さに一度身を浸し、それでもなお人と人が支え合うための具体的な接点を模索する姿勢こそが、最高峰の賞を勝ち取るための真の条件です。