数ある部位の中でも、家庭で絶対に失敗したくない場合に選ぶべきは豚肩ロース肉です。赤身の間に網目状の脂肪(霜降り)とコラーゲン質を含んでおり、60℃台前半でじっくり加温することでゼラチン化が進み、驚くほどの柔らかさと肉汁を保持できます。
プロのシェフが実践する下味と加熱のプロセスは明快です。肉の重量に対して0.8%〜1.0%の塩と黒胡椒、タイムなどのハーブを直前に軽く揉み込み、耐熱バッグ(ポリエチレン製などの高耐熱仕様)へ入れます。空気をしっかり抜いて水圧を利用しながら密閉するのが鉄則です。バッグ内に小さじ1杯程度のオリーブオイルを入れておくと、肉表面の熱伝導が均一化し、取り出し時の肉汁の流出も最小限に抑えられます。
湯煎完了後の工程にも重要な真相があります。それは「直後に切らない」ということです。加熱直後の肉細胞は膨張しており、その場で包丁を入れるとせっかくの肉汁がまな板へすべて流れ出してしまいます。バッグのまま粗熱を10分ほど取ってから取り出し、強火で煙が出る直前まで熱したフライパンで各面を30秒ずつサッと焼き、香ばしいメイラード反応を纏わせます。
ソースには、バッグに残った旨味たっぷりの肉汁(ドリップ)を余すことなく活用します。肉汁にバルサミコ酢、醤油、みりん、無塩バターを各大さじ1程度加え、フライパンで半量になるまで煮詰めるだけで、酸味とコクが調和した専門店クオリティのバルサミコソースが完成します。赤ワインや粒マスタードを添えることで、ワインの最高のお供に昇華します。