ギシギシと音を立てる細い階段を登りきった先に、東海館の象徴ともいえる四階の「望楼」が姿を現す。かつて温泉街の火の見櫓としても機能していたこの小さな空間は、四方に吹き放たれた窓から心地よい風が吹き抜ける特等席だ。
窓枠越しに広がるのは、伊東の街並みと天城連山の稜線、そして眼下を流れる松川。ガラスの入っていない窓から身を乗り出すと、川沿いに揺れる柳の葉擦れの音が耳をくすぐる。かつての宿泊客たちも、湯上がりにここで涼みながら同じ風を感じていたのだろうか。時間の境界線がふっと曖昧になる不思議な感覚に包まれる。