物語のクライマックスにおいて、視聴者に最も強烈なインパクトを与えた出来事の一つが、丹後学による「gaku」シェフ辞任劇でした。オーナーである江藤不三男(手塚とおる氏)の潤沢な資金力をバックに、ミシュラン三つ星獲得を目指して心血を注いできた丹後が、なぜ審査直前という最悪のタイミングで店を去らねばならなかったのか。その背景には、料理人の尊厳を巡る決定的な思想の対立がありました。
江藤オーナーは徹底した結果至上主義であり、星を獲得するためには他店の妨害や食材の横取り、さらにはスタッフの引き抜き工作など、手段を選ばない男でした。丹後はそうした江藤の手法に内心強い嫌悪感を抱きながらも、「最高の厨房環境で最高の料理を作る」という一点のために耐え忍んできました。しかし、江藤のプレッシャーと焦りは次第にエスカレートし、丹後の繊細で誠実な料理を「無難で冒険がない」と公然と否定し始めます。
決定打となったのは、若き才能である平古祥平(玉森裕太氏)をgakuへ招き入れた後の江藤の暴走でした。江藤はミシュランの調査員が来店する重要な局面で、丹後に無断でコースのメイン料理を祥平のメニューへ差し替え、さらに三つ星を逃した責任をすべて丹後一人に押し付けようと画策しました。「星さえ取れれば料理人のプライドなどどうでもいい」と言い放つ江藤に対し、丹後は静かに、しかし毅然とした態度でコックコートを脱ぎ捨てました。それは挫折による逃避ではなく、自らの料理哲学と人間としての誇りを守り抜くための誇り高き決断だったのです。