早稲田大学教育学部数学科出身の教育ライターらも指摘するように、直角三角形の合同条件で最も知的好奇心を刺激する論理的問いは、「なぜ斜辺が必要なのか」という構造的理由です。斜辺を含まない「直角を挟む2辺」が等しい場合は、通常の三角形の合同条件である「2組の辺とその間の角がそれぞれ等しい」で説明がつきます。では、「斜辺と他の一辺」の場合はなぜ合同になるのでしょうか。
数学専門メディア「数学fun」等の幾何学解説を紐解くと、この定理の裏には二等辺三角形の性質と定理が深く関わっています。
2つの直角三角形 $\triangle \mathrm{ABC}$ と $\triangle \mathrm{DEF}$ があり、斜辺 $\mathrm{AB} = \mathrm{DE}$、直角 $\angle \mathrm{C} = \angle \mathrm{F} = 90^\circ$、そして他の一辺 $\mathrm{AC} = \mathrm{DF}$ が等しいとします。このとき、一方の三角形を裏返し、等しい辺 $\mathrm{AC}$ と $\mathrm{DF}$ をぴったり重ね合わせます。すると、外側に巨大な1つの三角形($\triangle \mathrm{ABE}$)が現れます。
この合体した図形において、重ね合わされた頂点部分の角は $90^\circ + 90^\circ = 180^\circ$ となり、底辺が一直線につながります。さらに、外側の2辺はもともと等しい斜辺同士($\mathrm{AB} = \mathrm{DE}$)であるため、この合体三角形は二等辺三角形になります。
二等辺三角形の基本定理である「2つの底角は等しい」ことから、元の直角三角形の鋭角である $\angle \mathrm{B}$ と $\angle \mathrm{E}$ が等しいことが証明されます。鋭角が等しいことが判明すれば、前述の「斜辺と1つの鋭角がそれぞれ等しい」状態が導き出され、2つの直角三角形は完全に合同であると論理的に帰結するのです。
なお、中学3年生で学習する「三平方の定理(ピタゴラスの定理:$a^2 + b^2 = c^2$)」を使えば、斜辺 $c$ と他の一辺 $a$ が決まれば残りの一辺 $b$ の長さは代数学的に1通りに確定するため、高校数学の観点からも「3組の辺がそれぞれ等しい」状態へ直結することが明快に裏付けられます。