現在、太宰府天満宮の楼門をくぐった参拝者が一様に息を呑むのが、本殿の前に厳然と佇む仮殿(かりでん)の姿です。従来の仮殿といえば、本殿の修復期間中に神体を一時的にお遷しする簡素な仮住まいという印象を持たれがちですが、太宰府天満宮が打ち出した造営計画は、その固定観念を根底から覆しました。
屋根の上に約60種類もの樹木や草花が根を張り、まるで杜そのものが宙に浮いているかのような有機的デザイン。手掛けたのは、大阪・関西万博の大屋根リングをはじめ、国内外で先駆的な建築を生み出し続ける世界的建築家・藤本壮介(ふじもと そうすけ)氏です。天満宮周辺の豊かな自然環境や、菅原道真公を慕って一夜にして京から飛来したとされる「飛梅伝説」から着想を得て、「神様と自然、人間が共生する森」を具現化しました。
太宰府天満宮の仮殿設置期間は、本殿改修が本格着工した2023年5月から約3年間。本殿の竣工目標が2026年末から2027年初頭に設定されているため、この幻想的な仮殿を拝観できる猶予は、まさに2026年が最終局面となります。神社関係者が「千数百年の歴史のなかでも、二度と同じ景色は見られない」と語る通り、今この時代に現地を訪れる旅人だけに与えられた、極めて貴重な歴史の目撃体験といえます。
今回の太宰府天満宮の本殿改修の理由は、2027年に迎える「菅原道真公千百二十五年式年大祭」に向けたものです。現在の御本殿は安土桃山時代の天正19年(1591年)、小早川隆景によって再建された五間社流造(ごけんしゃながれづくり)の重要文化財。風雨に耐え抜いてきた檜皮葺(ひわだぶき)の屋根や漆の塗膜、彫刻の損傷を抜本的に補修するため、約四半世紀ぶりの本格解体修理が進められています。