五代目体制の屋台骨を支えたのは、武闘派の頂点に立つ組長と、希代の経済ヤクザと称された若頭の複雑な二頭政治だった。山口組の内部において、二代目山健組を率いた渡辺と、宅見組を率いた宅見勝のコンビは、組織を前例のない巨大帝国へと押し上げた。1990年代初頭のバブル崩壊前後の狂乱の中で、巨額の資金が二人の周りを巡り、組織の権力基盤は揺るぎないものに見えた。
だが、光が強まれば影も濃くなる。組織運営の方針や資金配分をめぐる二人の間の亀裂は、徐々に修復不可能なレベルへと深まっていった。1997年の新神戸ホテル射殺事件によって宅見勝が激動の生涯を閉じたとき、山口組の盤石だった支配体制は根底から揺らぎ始める。トップの沈黙と組織内部の動揺は、その後の分裂や弱体化へと繋がる不可逆な歴史の転換点となった。