国技館の客席に足を踏み入れると、独特の甘く芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。その香りの主こそが、髷を結う際に不可欠な「びんつけ油(木蝋)」だ。固形の油を手のひらの熱でじっくりと溶かし、力士の髪に馴染ませていく工程は、力士の集中力を極限まで高めるマインドフルネスな時間でもある。
近年、このびんつけ油のブレンド技術や髪の毛を強力に保持するヘアケアの手法は、現代の理美容業界からも大きな関心を集めている。ダメージを受けやすい長髪を濡れたようなツヤを保ちながら強固に固定する技術は、西洋風のヘアスタイリングとは一線を画す日本独自の知恵の結晶なのだ。