世間一般において「初代ドラえもんの声優陣」として語られる大山のぶ代、小原乃梨子、たてかべ和也、肝付兼太、野村道子の5人組は、厳密には1979年4月にスタートしたテレビ朝日版のキャストです。これに先駆けること6年、1973年4月1日から9月30日まで日本テレビ系列で放送された『ドラえもん』(制作:日本テレビ動画)が存在します。これがファンの間で語り継がれる日本テレビ版ドラえもんです。
この幻の日テレ版キャストにおいて、剛田武(ジャイアン)を演じたのが名優・肝付兼太でした。当時の肝付は30代後半。すでに『怪物くん』の番野(初代)や『オバケのQ太郎』のゴジラなど、藤子アニメの腕白な少年キャラクターを巧みに演じ分ける実力派として業界内で確固たる地位を築いていました。荒っぽさの中にもどこか愛嬌のある声を求められ、初代ジャイアンの椅子に座った経緯があります。
一方、この日テレ版で骨川スネ夫を演じていたのは、後に『サザエさん』の伊佐坂甚六役や海外ドラマの吹き替えで活躍した八代駿でした。つまり、日本テレビ版においては「肝付兼太=ジャイアン」「八代駿=スネ夫」という、現在の視聴者から見れば完全に逆転したフォーメーションが組まれていたわけです。番組自体はわずか半年(全26回・52話)で終了したため、当時の本放送をリアルタイムで体験した世代以外にはほとんど知られないまま、歴史の影に隠れることになりました。