物語の構造上、もしも千尋が親を元に戻すためにすぐこの団子を使っていたらどうなっていただろうか。千尋は当初、豚に変えられた両親を人間に戻すための薬としてこれを大切に保管していた。しかし、目の前で苦しむハクやカオナシを見捨てることができず、自らの「親を助けたい」という切実な願いよりも、他者の救済を優先して団子を使い切る。
スタジオジブリの創作理念において、自我の成長は常に「苦い現実を受け入れ、自己犠牲と他者への愛を選択すること」と結びついている。甘い奇跡で解決するのではなく、苦味に耐えて毒を出し切ること。この愚直なまでの描写にこそ、宮崎アニメが時代を超えて大人から子供までを惹きつけ続ける真骨頂がある。