スイスが世界でも類を見ない「死の選択」の地となっている最大の根拠は、1942年に制定されたスイス刑法第115条にさかのぼる。この法律は、第三者が「利己的な動機」を持たない限り、他者の自殺を補助する行為を処罰対象外と規定している。
さらに2006年、スイス連邦最高裁判所は尊厳死・自殺介助をめぐる判断で重要な判例を残した。深刻な精神疾患や身体的障害を抱える人物が自らの死を選択する権利について、意思能力が明確に維持されている限り憲法上の人権に含まれるとの解釈を示したのだ。これにより、自ら致死薬を服用できる状況にある患者に対し、医師が処方を行う枠組みが法的に補強された。
現地で運用されているのは、医師が直接注射等で患者を死に至らしめる積極的安楽死ではない。患者本人が自分の意思で点滴の弁を開ける、あるいは薬液を飲む「自己決定行為」が厳格に求められる。法律上の位置づけは明確であり、誤解されやすい概念の整理が徹底されている。