馳星周氏の直木賞受賞作『少年と犬』が刊行されてから歳月が流れたが、あの作品が描いた「目的を持たず、ただ傷ついた人間をリレーのように巡りながら癒やしていく犬」の姿は、2026年の今、より切実なリアリティを持って読まれている。
東日本大震災の被災地を背景にした同作の底流にあったのは、人間の身勝手さと、それをすべて包み込む動物の無償の愛だ。物語の中で傷ついた人々が犬との接触によって自らの人間性を取り戻していったように、過酷な社会構造の中で孤立する現代の少年少女たちもまた、犬という存在の中に生きる希望を見出している。