松山ケンイチの名を日本のみならずアジア、そして世界へと轟かせた決定打が、2006年公開の映画『DEATH NOTE / デスノート』前編・後編における名探偵・L(エル)役です。週刊少年ジャンプで連載され爆発的な人気を誇っていたメガヒット漫画の実写化にあたり、キャスティング発表時は原作ファンから極めて厳しい視線が注がれていました。しかし、スクリーンに現れた彼の姿は、世界中のファンの懸念を一瞬で感嘆へと塗り替えたのです。
目の下に濃い隈(くま)を刻み、だぼだぼの白い長袖Tシャツにブルージーンズ、猫背で裸足、親指の爪を噛みながら甘い菓子を頬張る奇行の数々。ビジュアルの再現度もさることながら、特筆すべきは「漫画的なキャラクターを、血の通った一人の生身の人間として呼吸させたこと」にありました。当時の劇場パンフレットや舞台挨拶の記録によると、松山自身はLを演じるにあたり、「極度の甘党であるLの感覚を身体に染み込ませるため、撮影期間中は実際に大量の角砂糖を口に含み、独特の姿勢を維持しすぎて尾骨を痛めた」という過酷なエピソードを明かしています。
公の場で見せたストイックな役への没入について、当時の金子修介監督は「リハーサルの段階で、彼の中にすでにLの魂が宿っていた。現場での集中力は凄まじく、カメラが回っていない時でもLの呼吸を崩さなかった」と後年のインタビューで証言しています。原作ファンから「原作を超えた唯一の実写化成功例」と評されたこの演技によって、第30回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。当時21歳にして、若手実力派ナンバーワンの座を不動のものにしました。